スクリーンには、白いブリーフだけを身に付けている男性がずらっと並んでいる映像が映っている。

教室から出るように言われた女子生徒たちは、体育館にいた。
 夏なのに黒いカーテンがひかれ、中は薄暗かった。そこに女子生徒だけが集められ、朝礼のように整列して床に座っていた。
 社会科の女性教師が、腕時計で時間を確認しながら体育館のステージにマイクを持って出てきた。
「えーっと、では始めますね」取調べのはずなのに変に笑顔の先生を見て、女子生徒たちは不思議がっている。
「実はですね、これから授業をします。もちろん先生ですから、社会に関係あります」
 余計に頭が混乱してきた女子生徒たち。
「みなさん、逮捕されたらどうなるか知ってますか?」しばらく生徒の反応をみる教師。
「すぐに刑務所とかに入るんじゃないですよ。それは裁判が終わってから。逮捕されたってまだ犯人だと決まったわけじゃないのね」なるべくわかりやすい言葉を使って説明する。
「じゃあなんで逮捕するかというと、逃げちゃったり盗んだものを隠しちゃったりしないようにするためなの。いろいろ調べるために、刑務所じゃないんだけど、建物に身柄を確保するのね、
「でも、さっきも言ったけどまだ犯人じゃないから、ちゃんと丁寧にしないとだめよね。もちろん犯人だってわかったって何をしてもいいってことじゃないんだけど…
「だけどね、いまの日本はね、そういう立場にある人の人権を全く無視しちゃっているの。それで今日はこの人権についてみんなに考えてもらおうと思って、こうやって集まってもらったの、
「まず最初に、あるビデオを見てもらおうと思います。ちょっとショッキングかもしれないけれど、30分ぐらいだし、こういうことが現実に行われているということを知ることも大事だと思います。じゃあ、ビデオ、お願いします」
 ステージのライトが落とされ、体育館はさらに暗くなった。ステージのスクリーンに映像が映し出された。
 スクリーンには、白いブリーフだけを身に付けている男性がずらっと並んでいる映像が映っている。
 顔の部分にはモザイクがかかっていて、誰だかわからない。体型は様々で、ちょっと子供っぽいのもいるし、背の高いがっしりしたのもいる。女子生徒たちは息をひそめてスクリーンを見ている。
『回れ、右』
 スクリーンには映っていないどこからか女性の命令口調の声が聞こえた。
「これは危険なものとかを隠し持っていないか調べているところです」ステージのスクリーン脇で教師が説明を入れる。
『1番』
『はい』
「このように取調べのときは、名前ではなくて番号でしか呼ばれません。みなんさんも普段、1番とか2番とか番号でしか呼ばれなかったら、どう思うでしょうか」
 右端の男が回れ右をして、こちらをむく。映像はアップになり、足先から順に上に移っていく。股間のあたりがアップになったときに、軽く笑いがおこる。
 顔のアップになるが、モザイクがかかっているため、誰だがはわからない。映像はちょっと引いた感じなった。
『手を頭の上に』
 スクリーンの男は指示どおりにした。
 画面の両端から白衣を着た者が出てきた。そしてその男の両脇に腰をかがめた。白衣の者にも顔にモザイクがかかっている。スカートをはいているから女性であろう。
 白衣の女性がその男のパンツに手をかけた。体育館が一瞬静まりかえる。
 次の瞬間、体育館中に驚きの悲鳴が鳴り響いた。
「しず、静かにっ! これは授業なんですよっ」
 スクリーンいっぱいの映像にはモザイクがかかっていなかった。
「いいですか、下着の中に物を隠すというのはよくあります。だからこうやって裸にしてまで調べなければいけないんですよ」女子の声を打ち消すように段々声が大きくなる。
「みんながもし、こういう立場になったらどうですか? 嫌ですよね。先生だって嫌です。でもこういうことが行われているんです。そういうことを知ってもらいたいから見てもらっているんですよ」
 多少、体育館が静かになる。
 スクリーンの男はこちらにお尻をむけて列に戻った。
 次の番号が呼ばれる。返事とともに他の男が回れ右をし、前に出る。
 再び白衣の女性が現れ、ブリーフを下げる。今度はさっきのような悲鳴はない。女子生徒たちは、近くの子と小声で話しあっている。
 20人ぐらいの列のおよそ半分が、あまりきれいとはいえないその尻をスクリーンにさらしだしている。
 映像は、急にカメラが切り替わった。
 ぴしっと手をきをつけの状態にした男たちが、自分の股間を隠すことなく整列してこちらを見ている。パンツをはいている者もいるが、ほとんどは全裸だ。一人ずつアップの映像になり、端から順にパンしていく。
『18番』
『はいっ』パンツをはいた男が回れ右をして、画面の奥へと消えていく。
 しばらくしてその男は、手で前を隠しながら画面に戻ってきた。
『手は横っ きをつけ!』女性のどなる声が聞こえる。
「犯人はいつでも、物を隠したり逃げようとしたりとそのチャンスを狙っています。ちょっと厳しいですが、取り調べる人は指の先一本まで注意しないといけないんです」
 スクリーンの男たちで、パンツをはいている者はいなくなった。
『回れ、右』
 画面には尻ばかりが並ぶ。すぐにカメラが切り替わり、正面の映像なった。
『ジャンプ!』
 一瞬映像が途切れ、その声に合わせて男たちがジャンプをはじめる。上下にものすごい勢いで揺れるモノをみて笑い転げる女子生徒たち。
「股の間とかに物を隠す人たちがいるので、こうやってジャンプさせるんです。別に楽しんでこんなことをさせているんじゃないですよ」
 映像が一度途切れ、違う場面が映し出される。
 全裸の男の前にバケツが置かれている。
『どうした、やらないのか?』
 女の質問に対し、男は黙って下を向いたままだ。
「これはじつはトイレなんです。トイレの個室に入ってしまうと、物を隠したりとかされても気が付かないですよね。だから取調べ中はここまで管理します」
 さすがに女子生徒たちにはショックが強すぎたようで、口数が少なくなった。
「さて、実はですね、ここに映っているのは、みなさんの先輩たちなんです」教師は映像を止める合図をだしながらステージ中央に戻ってきた。ステージが明るくなる。
「数年前なのでみなさんは知らない人たちばかりだと思いますが、一応誰だかわからないようにしました」急にうるさくなる女子生徒たち。
「じつは、毎年、男子生徒たちにはこれを体験してもらってます」この一言でさらにうるさくなる。
「し・ず・か・に! 人権というものを頭でわかるだけじゃなく、身をもって体験してもらうのがこれのねらいです。別に、はずかしいことをさせようとか、ばかにしてやろうとかでこういうことをやってもらっているのではありません」
 急に女子生徒たちの口数が少なくなる。それを察したのか、教師は説明を続けた。
「安心して、みんなにこれをやれと言ってるんじゃないの。そんなことしないからだいじょうぶ」女子生徒たちに笑顔が戻る。
「毎年やっているってことは、いままさに、男子が教室でこれと同じことを体験しています」
 女子たちがまたうるさくなる。さっきの映像にクラスメイトの男子たちを重ね合わせているのだろうか。
「しずかにっ!」教師は腕時計で時間を確認した。
「映像、入ります?」体育館の隅にいる教師に確認をとる。コクリとうなずいた。
 再びステージの照明が落ち、スクリーンに映像が映し出された。
 スクリーンには彼女たちの同級生たちが映っていた。一段とうるさくなる女子生徒たち。
 学生ズボンに上は上半身裸という奇妙な格好で一列に並んでいる。顔にモザイクはない。
「これは今の教室の映像です。生中継です。いまは服に隠してないかをチェックしているところです。シャツのエリとかズボンのすそとか、洋服にはけっこう隠すところがあるので、全部調べないといけないんですね」
 女子生徒たちはそんな話そっちのけで、スクリーンを食い入るように見ている。「あっ、○○クンだぁ」などとつい大声で言ってしまう生徒もいる。
「えーっと、これはA組かな、他のクラスに切り替えてみましょうか」
 教師の言葉で映像が切り替わる。ブリーフ一枚という姿で男子が整列している。モザイクはかかってない。体育館は最高にうるさくなった。
 次の映像に切り替わる。今度はお尻のアップだった。カメラがひいていくと、全裸の男子の後姿がスクリーンいっぱいに映し出された。女子たちは、「誰? ○○クン? うっそぉ」などといたるところで推理ごっこを楽しんでいる。
 映像がぶつっと切れる。
「ここまで。これ以上はだめぇー」
「えーっ」
「男子たちはああやって、体験してもらっています。さっきみんなにはやってもらうことはないと言いましたが、じつは他にやってもらうことがあります」
 不安な目で教師の次の言葉を待つ女子生徒たち。
「さっき、取調べの映像を見てもらいましたが、みなさんには取り調べるほうの役をやってもらいます」女子たちの笑顔が多少戻った。
「さっき、映像に女の人がちょっとだけですが映ってましたよね。彼女たちは別に本物の警察官じゃなくて、ここの卒業生なんです、
「いまからみなさんに、一グループ10人ほどにわかれてもらいます。各グループで役割を決めて、実際に取調べをしてもらいます、
「もちろん、これは遊びじゃないです。取り調べるというのはとても大変な仕事です。もちろん、肉体的に大変ですが、それ以上に精神的に大変です。さっきの映像をみてもらってわかると思いますが、取り調べられる人の人権を侵害してしまうからです。その辛さ、人権の大事さというのを身をもってわかってもらいたからこういうことをやっているのです、いいですね?」
 女子たちにはそんなことはどうでもよく、で、具体的にはなにができるの? と友だち同士でぺちゃくちゃ話をしている。
「グループは決まりましたね。いまから名簿を配ります、この中から取調べをしたい男子にマークをしてください。一グループで男子は五人です。かぶってしまった場合はじゃんけんで決めますから」
 さっそくグループで話し合いをする女子生徒たち。「○○くんはかっこいいから外せないよね」、とか「でももしこんなことして嫌われちゃったらどうしよう……」などと真剣な表情の子もいる。
「いまから資料を配ります。みなさんにやってもらうことはここに書いてあります。男子には誰に取り調べられたかわからないようにしますから、大丈夫ですよ」
 それを聞いて安心して候補者を話合う女子生徒たち。手元に届いた資料を見て驚き、他の子にいそいでそれを見せ、みんなで資料をみて爆笑している。
「だったら○○クンは外せないよねぇ」
「えー、どうせなら××くんのほうがよくなーい?」
「私も××のほうが、見てみたいなぁ」
 名簿は集められ、取調べられる男子は決まった。そのリストは体育館の外で待っていたスーツを着た男に渡された。男はぺっとツバを吐いて教室のほうへと歩いていった。
「それでは、A組の第1グループは特設取調室のほうに移動しましょう。他の人たちはここのスクリーンで見てますからね。じゃ、がんばって」
 10人ほどの女子生徒たちは笑顔で体育館を出て行った。