騙されたセレモニー

明日から晴れて中学生。
部屋の鏡の前で白いカッターシャツ、詰襟入りの制服を着た自分の姿を見る。
少しだけ大人になった気がした。
外の郵便受けに入っていたお知らせの手紙に目を通す。そこには藁半紙に手書きの文字で
以下のように書かれていた。
入学式の前に新入生の皆様におかれましては簡単なオリエンテーションがございますので、午前7時までに下記へ集合してください。(朝の7時か、、いきなり早い時間だな)
僕はそう思いながらも、明日の入学式に持っていく物などの準備を整えていた。
翌朝
いつもと少し違う朝。新しく始まる学校生活に対する期待と不安。
今はそんな複雑な気分だった。僕は中学校へ向かう道の途中、小学校の時からの親友である勇人と出会った。
「幸成、ひさしぶりィー」
「あっ、信次、久しぶりだな」
「中学校、一緒に行くか」
「あぁ」
信次とはついこないだ卒業式で会ったばかりなのに、妙な照れ臭さがその後の言葉を遮った。
僕は横で歩く信次のまだ着慣れていない制服姿が妙におかしかった。勇人も同じ気持ちを抱いていたのか、こちらをちらっと見るなり何ともいえない微笑を浮かべていた。
学校に近づくにつれ、いでたちや表情を見ればすぐに新入生と分かる制服組が増えてきた。
男子は単独での登校も多かったが、女子は数人連れや近くで誰かと待ち合わせしての登校が目立っていた。
そうしてまわりを眺めながらしばらく歩いていくと、その先にこれから3年間通うことになる中学校が見えてきた。
小学校の校舎に比べると規模が大きくグランドも広い。
通う生徒も他校区からを含めるとその人数はかなり多いようだ。
中学校の正門前には、上級生と思われる女の子数人が登校してくる僕ら新入生一人一人に声を掛けていた。
女の子の一人は手作りの大きなプラカードを持って立っている。
見れば『新入生の男子生徒はこちらで受付してください』との文字が。僕と勇人はそのプラカードの指示どおり、女の子の待つ正門前で受け付けをした。
「あ、新入生ですねー、おはようございます。」
「ここに名前、あとここにも記入お願いします」
いろんな欄が並んでいたが、僕はその女の子に言われるがまま、差し出されたペンですぐに分かる欄から先に埋めていった。
「身長、体重、性交歴、性器の長径(分からない場合は係りに申し出てください)」
書くのに窮すると思われる部分にいちいち申し出て...
という文字が並ぶ。後から冷静に考えればおかしな問いかけだったが、その時は初登校日ということもあって、
何一つその提出用紙を疑うことなくただ指示に従っていた。
僕は何とかの長径の意味が分からなかったので、近くにいた係りの女の子にそのことについて聞くと、
正門裏の白い仮設テントにいる人のもとに向かうよう言われた。
指示通り白い仮設テントのような所に行くと、別の女子生徒がパイプ椅子に座り待機していた。
僕は彼女に促されるまま中へと入った。
テントの中は日の光を通さないため薄暗く、脚立のついたテーブルが中心に置かれ、奥には僕たち新入生に渡すためのものなのか何十個もの小さな白い箱が所狭しと積まれている。
「じゃ、ズボン脱いでくれるかな」
係りの女子生徒はそう唐突に切り出した。
僕はここへ来てしまった以上、逆らうわけにもいかずおとなしく制服のズボンを下ろした。
「それじゃパンツ下ろしますね」
(えっ、パ、パンツ??)
「じゃ、一気にいきます」
何かの間違いかと思い、その子に聞きなおそうとしたときには、時すでに遅し。
パンツを掴む彼女の手は足元へ押し下げられていた。
不意に異性の前で露わにされてしまった僕のちんちん。
今まで人目に晒すことを避けてきたはずのちんちんは、冷たい空気の中に晒され自分でも情けなくなるほど
縮こまった形状であっさりと晒されてしまった。
それもごく近い年の女の子に真正面から見られている。
僕はそれでも中学生ともなればこういうこともあるんだと自分に何度も言い聞かせながら、彼女に間近で見られて込み上げてくる恥ずかしさにじっと耐えていた。
それに対して女の子は特に気にする様子もなくちんちんを右手でしっかり抑えながら、ポケットから取り出した小さなメジャーを僕のそれにピッタリと当てた。
「んーっと、平常時4.5センチ、横幅2.9センチ。」
「あらら、典型的な赤ちゃんちんちんですね」
「そうみたいですねw」
恥ずかしいやら逃げ出したいやらでパニックになりそうな僕に対し、彼女はいかにも慣れた手つきで淡々と仕事をこなしていく。そしてメジャーをすーっと巻き戻しながら僕の方を振り返った。
「ところで、性交歴は?」
「セ、セイコーレキですか??」
「異性と関係を持ったことがどうかってこと!」
物分りの悪い僕をさも面倒くさそうな表情で言い放った。
「えっと、、、何って言ったらいいか」
「はい、ないですね。あとは、、あっ、そうそう!M検を受けたことは?」
「エムケンですか?英検なら受けたことありますけど、」
「プハハーッ」
僕がそう言うと、彼女はなぜか大笑いを始めた。
しかし何度聞いてもその意味を教えてはくれなかった。
「ハイハイ、分っかりました。それではこれお渡ししますので忘れず会場に持ってきて下さい」
ここでもまたその意図を理解することのないまま、僕は渡された手のひらほどの白い箱を持って
テントの外に出ることを許された。
「おっ、幸成戻ってきたか」
「さっきさぁ、これ貰ったんだけど中身何だろ」
「オレも貰ったよ、ほらこれだろ」
「でもいまは開けちゃいけないんだって」
「どうせ紅白まんじゅうだから、いま開けて食うなってことだろ。それなら帰りの校門で渡せよって話だよな」
「あぁ、そっかー、そうだよな」
体育館内
新入生は入ってきた順番にあらかじめ並べられたパイプ椅子に座らされていく。
座って待つこと約10分。さっきの上級生の女の子が体育館に入って来た。
そしてその中の一人が講堂に上がりマイクを手に取った。
「新入生の皆さん、はじめまして。えー、入学式の前に皆さんに集まってもらったのは、ほかでもありません。これから簡単な実技試験をしていただくためです。」
女子生徒の意味ありげなその発言に新入生から軽くどよめきが上がる。
「おいおい、試験なんて聞いてねぇぞ」
隣の信次が前を見ながら愚痴をこぼしている。
「皆さん、静粛にお願いします。昨今の受験ブームで、小学生果ては園児のうちから入る学校を受験するという人が増えてきています。ですがウチの学校は公立ということもあり入学試験は課していません。ただ、世の中の動きに対応していく必要があるので、今年から新入生の皆さんに簡単な適正試験をしていただくことになりました。とはいっても、結果云々で入学できないということではありませんから心配しないでくださいね」
「試験といっても、堅苦しく考える必要はありません。当然皆さんはまだ試験に馴染みがないでしょうから、ひとつひとつ丁寧に指導しますので、それに従って 行動してください」
「それでは時間もありませんので、さっそく始めていきたいと思います」
「試験は呼ばれた方からこちらを出て、廊下のつきあたりの教室に入ってください。そこに試験官がいますので、その人の指示に従ってください。では、こちらの方からどうぞ」
「前の人のすることをよく見ておいてくださいね。後の人もそれに倣って行動していただきますので」
体育館を出てすぐの場所にある渡り廊下で、順番を待つ僕の前には信次ともう一人、同じように真新しい制服を着た男子が並んでいた。
「では、そちらの方どうぞ」
近くで誘導をしていた係りの女の子が中に入るよう促した。
「し、失礼します、、」
「はーい!」
前にいた一人が目の前の教室のドアを開けて中に入っていった。
「十一番、是永悠太と言います、」
中の様子をじっと耳をすまして聞こうとしていると、いきなりドアが開いた。係りの子がどうやらスムーズに事が運ぶようにと後続の人にも見えるようドアを開けてくれたようだ。
ただし全開ではなく半開きにしているため、中の様子は少しだけしか見えない。
「え、よく聞こえないわよ。もっと大きい声で!」
中にいた試験官と思われる女の子が語気を荒げ始めた。
僕を含め後ろに並ぶ男子の列に動揺が広がる。
「名前言ったらさっさと全部脱ぐ!」
その男子生徒は慌てて制服を床に脱ぎ捨てている。
その間にも......
「男らしくないわよ」とか
「チンタラしないっ」といった激しいヤジが聞こえてくる。
その後は長い趣旨説明があってよく聞き取れなかったが、恐ろしい言葉が断片的に聞こえてくるのがわかった。
「ここにサンプルを......」
「さっきもらったミニフラスコに......」
その後男子生徒の悶絶の声が聞こえてくる。
「あ、ぐ、ぐぅ.......」
そうして男子生徒が入って十分程経ったころだろうか。
「もう終わり?だらしないわねぇ、次!」
恐ろしいほどの野次を飛ばしながら次の生徒を呼び入れた。
もう次の生徒は当然震え上がっていた。
「じ、十二番、田中陽一です、、」
このときもやはり何をしているかの説明はほとんど聞こえてこなかったが野次だけは聞こえてくる。
「なんかチンカス臭くない?」
「くさいくさい、私も思ってたとこ」
「ガキのくせしてオナニーばっかやってんじゃないの?」
「(爆)」
「・・・・。」
そしていよいよ親友の番になった。
「十三番、藤木信次です。」
「数本でも毛なんか生やしてちゃいけないよねぇ」
「バリカンでやっちゃいましょ。え、バリカンがないって?じゃあ、これを使いましょう」
ここからも点火されたチャッカマンを持つ女子生徒の手が見てとれる。
ボゥン/
「ったく、ゆとり世代はこれだからw新入生はツルツルに限る、ジョーシキよねぇ」
あまり親友に対する悪口は聞きたくなかったが、それでも耳に入ってくる野次だけは完全にシャットアウトすることは出来なかった。こっちへ戻ってくる信次と顔を突き合せるのは、正直ひどく気まずかった。僕の横を無言で通り過ぎる信次の顔は、これまでに見たことのないほど強張っていた。
そして端に立っている係りの女子生徒が、ついに僕にGOサインの合図を送った。
「じ、十四番、吉田幸成!」
(な、何をされるんだろ)
「はい、まず着ているもの全部脱いでェ」
(え、、マジ?)
「あら、今日8人目のホーケイちゃんか。しょーがない、私が皮を剥いてあげましょ」
僕はそれを聞いた途端、頭が真っ白になった。
「クスクス」
「イ、イタいッ」
「痛くない痛くない」
「さっきもらったミニフラスコは?そこにいま精液を入れて」
「う、うぅ、ここで、ですか」
「はぁー、何の為にここに呼ばれたんだか」
その試験官はポケットから出した手を、スッと僕のちんちんに当てた。そしてしっかり握り締めるとそれを前後左右へ振り出した。
「うぅっ」
僕は羞恥を通り越して初めて体験する恥ずかしさと心地よさに何がどうなっているかも分からないまま
しばし呆然となっていた。
「情っけない声出さないでよ」
「先輩、まだ中一ですから」
「うーん、それもそうね」
「よし、終わりっ」
試験官の女性はそう言うと、僕の持つ瓶をひったくるようにして奪い取ると、僕の突き出したお尻をペシッと
一発叩いて廊下へと追いやった。
僕らは顔面蒼白のまま体育館に戻り、もといた席に着いた。
気付けば、試験を終え落ち込む生徒とこれから何をされるか知らない生徒の表情には明らかに差があった。
まだ試験を終えていないまわりの生徒が賑やかに騒ぐ中、僕は隣の信次とは気まずい雰囲気のまま話すきっかけを掴めないでいた。
そして時間を追うごとにそれまで賑やかだった体育館の中は、いつしか全体が重い空気が支配するようになっていった。
そうして、最後の一人が沈痛な面持ちで引き上げてきた。
時計をふと見るとまもなく入学式という時間になっていた。
そのときだった。閉じられていた体育館の扉が開いたかと思うと、同じ制服を着た男子生徒がグループで入ってきた。
(あ、まだ新入生いたんだ....)
そんなことを思っていると、その中の一人が僕に声を掛けてきた。
「すいません、入学式はここでいいんですか」
「あ、はい。」
「よし、じゃあここに座ろうぜ」
「あ、あの、、」
「はい、何すか」
「も、もう、試験は受けてきたんですか」
「実技試験??」
僕の質問の意味が分からないのか顔をポカーンとさせている。
「えっ、実技試験ってそんなのあるんですか」
後ろに座っていた、その子の友達と思われる子がこちらの会話に入ってきた。
「みんないま済ませてきたんですよ」
「ヤッベー、どうしよう、、」
「ってか、そんな話全然聞いてないけど。どこで聞きました?その話、、」
「えーと、この藁半紙がウチのポストに入っていたんですけど」
「はぁ、藁半紙??」
「なんか騙されてないすか?それ」
その男子生徒の言葉に僕はハッとした。
僕は気になって式が終わったあと、確認することにした。
すると、体育館の外のスロープであのとき見た女の子が何食わぬ顔で、友達数人とダベっていた。
「......でさー、そいつ超イケてなかったの。」
「それはサイアクだったねー」
「あ、あの、、」
「ハァ、誰アンタ?」
「さっきの実技試験のことなんですけど、、」
「あぁ、あれ? アレね。」
「毎年そうやって聞いてくるのんびり屋さんがいるのよ」
「中には試験を免れたヤツもいたみたいだけどねw」
「???」
「一応下に小さく歓迎セレモニーって書いたからね。ボクぅ、基本的には自由参加だったんだよ、アレ、分かる?」
「アレのどこがセレモニーなんですか」
「プフッ」
「まぁ、その前に口の利き方気ィ付けた方がいいわね」
「あ、すいません、でも」
「でも?」
「でも試験って聞けば絶対参加しないといけないと思うじゃないですか」
「セレモニーはちゃんと私らのリーダーが歓迎の挨拶したっしょ?試験についてはまぁオマケみたいなもんだけど。」
「お、おまけ??騙したんですか、僕らのこと、、」
「ヒューヒュー、熱い熱い!イマドキそんなの流行んないって。楽しい学園生活の1ページ目がエイプリルフールなんてなかなかないことだよ♪」
あまりに悪びれる様子のない彼女たちに、
僕は返す言葉もなかった・・・。
あとで聞いたところによると、彼女たちにとって毎年僕のように数人の新入生がクレームを付けてくることは折り込み済みみたいだ。
それでもなぜか学校の公認を受けて一部の上級生が毎年この歓迎セレモニーを続けているらしい。
だけど、その悪しき伝統をいまの僕が知ってもそれはあとの祭りであることに変わりはなかった。