恥ずかしい水着

西北高校は私立の学校である。
同校に通う生徒の男女比率は女子7割、男子3割とかなり偏った学校だ。
というのも、元は女子高だった学校を現在の校長が、経営改革の一環として去年から実施されたばかりなのだ。
通学風景を見れば、やはり以前の女子高に通う華やいだイメージはそのまま。そこに少数の男子が肩身狭く通学しているようにどうしても見えてしまう。
同校・グラウンド
いつもと変わらない朝礼。だがこの日の校長からはいつもの世間話はそこそこに、ある提案が出された。
このことが同校に通う男子にとってまさかの悲劇を生もうとは、このとき誰が予想したであろう。
「あー、ウチの学校の水着のことだが、このたびデザインを一新することにした。水着のデザインはある程度絞り込んであるから、その中から選定する作業を水泳部諸君の"検討委員会"にお任せすることにする。委員のメンバーはすみやかに全生徒から男女それぞれの水着のアンケートを取って公平に決めるように。」
水泳部・部室
「えーと、朝礼の話にもあったように新しい水着を決めることになった。女子はマネージャーの星野、もう一人は真中。男子は鈴木と西野。お前らで2週間以内に生徒からアンケートとって決めてくれ」
水泳部員、さっそく顧問より出された水着のサンプルに目を通す。
女子(Female)の水着はA〜Gの7種類、男子( Male )の水着はH〜Nの7種類だ。
女子の水着Aはオーソドックスな水着で、Gになるほど腰からのラインがハイレグ化している。男子も同様に、Hは今風のスパッツ型で、Iは従来から使われているような、ハーフ型で後になるほど裾が短くなり、
Lはハイレグビキニ。ここらになると一般でもあまり見かけないタイプだが、顧問の中村先生は古いタイプの体育会系でビキニ派を推奨しているだけに、この絞込みは顧問の趣味が多分に入っている感じだ。
Mになると更に奇抜なTバックTフロント、Nに至ってはYバックYフロント型という主に機動性を重視した型破りなデザインになっている。KとLはデザイン的に古く、男子に人気はなさそうだ。
一通り見た結果、女子の方は大方B〜C程度ですんなり意見が一致した。
「FやGの方がカワイイよな」
「何いってんのよ、私らは今の水着を変える必要なんか無いに決まってるじゃないの」
「自分達の足もと見てから言いなさいよ。バッカじゃないの」
少数の男子からはFやGを推す声が聞こえるも、女子部員の活躍度を考慮すると、今のBかもしくはCという現状維持派の意見が圧倒的だった。これに対して男子水泳部の方は、近年の凋落ぶりは目に余るものがある。
ゆえに男子の水着に対しては、女子からも厳しい意見が相次いだ。
「オレたちはオレたちで頑張ってる」
「でも男子は総体にすら出れないんじゃねぇ」
「うん、男子は思い切って現状を変える必要があるわね」
「I なんかいいよな」
しかし、部のキャプテンである鈴木の意見にすら女子は全く耳を貸さない。
「Lなんかどうかしら」
「うーん、それもフツーね。なんかシンクロ部の公演用って感じ」
「やっぱ、他より強くなるには他と同じじゃダメよ」
「そうよね、水着から変えていかなくちゃね」
「ならNなんてどうかしら」
「うん、いいわね。いかにも男らしいってカンジで」
女子の妙な意見のまとまりに、男子は慌てて反論する。
「絶対ありえねー」
「ほかの水泳部以外の男子にも聞いてみろよ。絶対拒否するから」
「いい?学校の問題は生徒の多数決で決定するものよ」
星野の発言に、男子は一瞬凍りついた。
無理もない、同校の男女比率7:3では、女子の考え次第では、男子水着がNになってもおかしくないからだ。
星野の言葉には言わずもがなそういう意味が含まれていたに違いない。
要はこれが星野ら女子の間で意思疎通が図られると、男子にとって由々しき事態に発展する問題であることを男子は認識していた。現に水泳部だけの無記名投票の結果でも、女子はC、男子はNが一番多かった。
8:2と女子の割合が高い水泳部だけに当然の結果だったにしろ、この問題は深刻だった。
鈴木という男子キャプテンが居ながら、実質No.1マネージャー、星野が部員に向けて口を開いた。
「みんなの意見を集約した結果、女子はCパターン、男子はNパターンの水着の要望が多いので、これをもって全校生徒に周知活動を広めていきたいと思います。名付けてCFNM推進委員会。」
「何がCFNM推進委員会だよ。だいたい女子がCの水着になるんなら男子は当然Jあたりにするべきだろ」
「そうだそうだ今の時代、男女平等だよ」
「Jなんて、いつまで経ったって男子の水泳は速くなんないわよ。それが分かってるからここのみんなだってNに入れてるんでしょ」
「Nに入れてんのは、アンチ男子のクソ女だろが。Nに入れた男子がいたら会ってみてぇよ」
「つべこべ言う前にもっと水泳頑張ったらどうなの」
「だいたいあんた達だって、女子の水着投票でGに票を入れたでしょ。スケベ!」
「.......。」男子、言い返す言葉もない。
「こんな時だけ男女平等男女平等って、バカみたい。せめて女子並みに活躍して対等な立場になってから言うことね。」
「そうよ。あんたら男のくせして、ホントにちんちん付いてんの?」
完全に女子のペースだ。
「あした周知活動の一環として、朝礼で水着PRの時間もらってあるから、鈴木くんその時にNの水着穿いて出てよね」
「あぁいいとも、最初で最後のN型水着のお披露目会になるだろうけど」
星野ら女子の勢いに、思わず鈴木は虚勢を張ってしまう。
しかし、気を取り直して、鈴木は男子部員に向かって言った。
「それより、オレたちはオレたちでその後にN以外の水着採用を賭けて大々的なキャンペーン張ろうぜ」
「おう、Nに入れる票さえ防げば、あとは自然にHからJに流れるだろ」
「まさかKとかLに入れる奴はほとんどいねえだろうからな」
鈴木、そう言いながらもふと目に止まったN型水着の説明書を手に取る。
「見、見るだけだからな」
そう言ってまわりの男子部員に気を使いながら、カタログの表紙をめくると、いきなりN型を穿いた外人男性の写真が目に飛び込んでくる。
ワイルドな体には何を穿いても似合うものなのか、水着と呼ぶには抵抗のあるN型でさえも、すらっと穿きこなしている。写真は真正面から捉えている一枚だけだが、性器は一応隠れているように見える。
下の毛は剃っているのか、特にはみ出ている様子もない。
次のページの説明書を読んでみる。
ニューN型2005(水泳上級者向け)
★スイムウェアN型の特長として、構造上ほとんど水の抵抗を受けないため、他製品に比べ1,2秒記録が短縮されるという統計が出ています。(ただし一般的なユーザーの統計につき、その効能を保証する物ではありません)
●使用上の注意:普通の方が使用されますと陰毛が露出する可能性がございますので、8割方剃った上でご使用ください。また、構造上ある一定の方向から強い水の抵抗を受けますと、性器が露出する可能性がございますので必ず体格に合ったサイズのものをご使用ください。
「何だよ、これ。注意書き見てみろよ。露出露出って、オレたちは露出狂じゃねえってんだ。大丈夫、こんなの通るわけねえ」
そういって、数少ない男子部員を励ます鈴木だった。
翌日、朝礼前の部室
「はい、Nの水着」
「おほー絶対ありえねぇ、実物の方がかんなりキツイ。こんな水着に票入れる奴の神経が分かんねぇ」
鈴木、全裸になってNの水着を穿く。比較的色白で薄毛の鈴木でさえ、下腹部から伸びる毛を完全に水着で覆うことは不可能だった。
「西野、最初で最後とはいえ、これは恥ずかしいわ。毛剃るから安全カミソリ持ってきてくれ」
同・グラウンド
朝礼が始まった。セーラー服を着た女子生徒の中で、ただ一人、色白の裸身にYバックYフロント型の水着で整列している鈴木の姿はいかにも違和感があった。
しかも、水泳部キャプテンの割に華奢な体つきの鈴木にとって、Yフロントと呼ばれる部分と自分の身体の間にはどうしてもわずかな隙間が出来てしまう。横にいた女子はそれを見るなり、
「鈴木ってさぁ、意外とアレ小っさいんだね」
「普段威張ってるくせにね」
後ろからは、
「オシリ丸見えなのに恥ずかしくないのかな」
「やだ、私なんかさっき歩いてきたとき裏チン拝んじゃったわよ」
といった声が聞こえてくる。
思ってもみない反響(?)に、初めは強気だった鈴木も羞恥に耐えざる
を得ない時間の連続に幾ばくかの不安が脳裏をかすめる。
そして、校長のいつもの長い世間話が終わった後、
代わって水泳部のマネージャー、星野が朝礼台に立った。
「おはようございます。このたび皆さんもご存知のように学校の水着が変わります。女子水泳部は去年のインカレ出場や総体準優勝の実績がありますので、そう大幅に変える余地はないものと思っています。しかし、残念ながら水泳部をはじめとする男子の皆さんについてはもう少し頑張っていただかないと、このままでは男子水泳部は廃止に追い込まれてしまいます」
ここまでは皆、黙って聞いている。
「そこでこんな水着を男子の皆さんに提案したいと思います。これは昨日水泳部で公認された水着です。」
星野は持っていたサンプルを公開した。高々と掲げられたそれは、身体を覆うような生地はほとんど見当たらず、数本の紐が数ヶ所交差しているだけの薄っぺらいものだった。それを見た女子の間からはざわめきや笑い声が聞こえてくる。対照的に男子生徒は皆一様に表情が硬い。
「そこで今日は周知活動の一環として、鈴木キャプテンに穿いてもらってます」
星野は整列している鈴木に目で合図を送る。
鈴木は皆が注目する中、朝礼台へ向かう。
「お、おっと・・・」
危うく、ちんちんが細い水着をすり抜けて全開しそうになる。そして、鈴木がちんちんと水着の位置を微調整するたびに近くからはププッと失笑が起きる。そんなこんなで朝礼台に上がると、拍手と同時に悲鳴にも
似た声が上がる。近くからは「見えてる見えてる」という声が聞こえてくる。
鈴木は思わず自分の水着を確認した。そんなはずはないと思う鈴木の意に反して、なぜか未だに聞こえてくる。実は朝礼台は高い位置にあるため、下付近にいる女子からは、視覚上"アレ"が丸見えだったのだ。
マネージャーの星野は、
「これが新しい水着です!」
これにすかさず、横の鈴木が反論する。
「いや、男子についてはまだ決まったわけじゃないです。ほかに6種類もあります。どれがまともか皆さんの良識を信じています。」
鈴木の目は哀願するように、顔は悲壮感すら漂わせながら懸命に訴えている。
しかし、マネージャーの星野も負けずに応戦する。
「それは、投票で決まることですから。じゃ、これで終わるのもなんなんでラジオ体操流しますので、ここでPRも兼ねて体操してください。」
「そ、そんなの聞いてないぞ」
予定にない発言に鈴木は、真横にいる星野を睨み付ける。
しかし当の星野は知らんふりをして、そそくさと台を降りると、そばに置いていたテープレコーダーの再生ボタンを押した。
「おい、待てよ」
鈴木の心の準備もままならないうちに、体操の音楽が始まってしまった。
♪腕を大きく上にあげて背伸びの運動!はい!
制服を着て立っている大勢の女子の前で、一見全裸に紐だけのような、Tバックも顔負けの水着を穿いて体操するという体験は、鈴木が考えていた以上にハードなものだった。
♪手足の曲げのばし腕を大きく振って足もしっかり曲げのばし...
体が上下に揺れるため、ちんちんが出そうになる度に
「おちんちんもぷ〜らぷら」
と、目の前の女子が野次を飛ばし始める。
♪前後に曲げる運動。前に深く、後にぐーっと...
後ろへ反る運動に合わせて「はいっ、ご開チーン」
「そして、またまたご開チーン」
♪腕を左右にねじってねじって大きく大きく...
腕を横に振るたびに「チンチン飛んでけー」
「チンチン飛んでけー」
鈴木にとって、うっとうしい女子のギャグも、周りの女子にとっては抱腹絶倒ものだった。
♪大きく体を回します。脇もぐっと伸ばして...
体を回すたびに「おちんちんもぐ〜るぐる」
そして、体操も終盤。悲劇はついに起きてしまった。。。
♪軽く跳躍!いち・に、さん・し!
あれほど気を付けていたつもりが、初めの跳躍でちんちんは水着の収容力に耐え切れず、とうとう飛び出してしまったのだ。ぴょょーん、ぴょよーん。
その動きはまるで蛙が元気に跳ぶ様子にも似て、まわりは大爆笑だ。
笑われようがいまいが跳び運動だけに同じように飛び跳ねてしまうちんちん。
それを戻すことすらできない鈴木の姿は、まるでピエロによって周知(羞恥)という名の糸(意図)で踊らされている、あやつり人形といった感じだ。
跳躍が続く時の掛け声いち・に、さん・し!になぞらえて、どこからか、いち・に、ちん・ぽ!と元女子高とは思えない言葉が何回も飛ぶ。
いつしかグラウンド全体が大合唱になっている。レコーダーから聞こえるおじさんの声もいち・に、ちん・ぽ!に聞こえるほどだ。
いち・に、ちん・ぽ!。。。  
あぁダメだ、トラウマになってしまう。
鈴木の近くにいる中で、唯一男性の校長も、体操の途中ということもあってか、見て見ぬフリをしている。頼りにならない校長と一部の男子を除いて、ほとんどの生徒が鈴木の"裸踊り"を見て笑い転げている。
♪手足の運動。呼吸を整えてのびのびと
「おちんちんものびのびと〜」
〜♪
こうして悪夢のラジオ体操は終わったが、鈴木はすでに逝ってしまっていた、いや、憔悴しきっていた。もはや抜け殻となってしまった鈴木にマネージャーの星野が声をかける。
「はいはい、いつまでちんちん出してんの。終わったらすぐに退散する!」
プッ/
クスクス/
この鈴木の"惨状"を見て、水泳部の男子たちは危機感を募らせた。
何としてもN型だけは阻止しなければ、と。
投票日まで一週間前鈴木はこの前のこともあってか、学校を数日休んでいる。
代わりに部の名目上No.2の西野が中心となって男子部員は連日、登校や下校時、門の前に立ってスピーカーを使ってN型水着以外の採用を訴えた。また昼休みには校内放送を使って活動も行った。
「N型水着の推進は女子のわがままだ」
「横暴をみんなで阻止しよう」
しかし、この過激な謳い文句が逆に女子の反感をさそってしまい、N票支持に拍車がかかってしまうことになろうとはいまの西野たちには知る由もなかった。
そんな男子に比べて、女子部員は男子ほど目立った動きも無く、地味にPR活動をしていたが、部のマネージャーである星野の主張には説得力があった。
「女子は現状維持、男子は水泳発展を」
女子水泳部のめざましい活躍に比べれば、男子水泳部の現状を憂う意見が大多数だったことからも、流れは完全に”CFNM”へと傾いていった。
一週間後の部室
水泳部員(特に男子)は、固唾を飲んで集計された投票結果に目を通した。
【女子の水着】
A(7.0%)B(30.5)C(39.5)D(16.2)E(1.3)F(0.4)G(5.1)
【男子の水着】
H(22.1)I(20.5)J(11.4)K(2.8)L(1.9)M(0.8)N(40.5)
女子はC、男子はN。。。
その瞬間、男子部員からは一様に溜め息が漏れた。
かたや女子は余裕満々の表情で、結果を見ずとも男子の様子から結果を悟って、まるで大きな大会に優勝でもしたかのように盛り上がっている。
「あーあ、ウチみたいな女子優位な学校じゃ物事みんな女子に決められちゃうよ」
「バーカ、ウチらみたいに結束しないからよ。数字をよく見てみなよ。いい?HからJに流れた票を束ねれば、N以上の票を集められたのよ。それをあんた達は血眼になってN以外なら何でもいいとか叫んでたでしょ」
「あっ、そうだったのか」
アンチN運動を率先して活動してきたNo.2西野は唇をかんだ。
「気付いても遅いわよ」
「ホント、トロいんだから。男子は」
「じゃ、これから顧問の中村に結果伝えて、明日にでも納入してもらうよう頼んでくっか。真中行くよ」
「はい、マネージャー。あんた達、明日から大変だろうけど頑張ってね。それじゃ」
意気揚々と職員室へと向かう二人を、男子部員はただ呆然と見守るほかなかった。